Fermi-Pasta-Ulam系を始めとした非線形格子モデルのダイナミクスの解析,分子動力学シミュレーションを用いた原子・分子スケールの振動現象および非線形力学の立場からのダイナミクスの理解がメインテーマです。これらの知見を総合して,固体材料の原子スケール,マルチスケールシミュレーションに非線形動力学の手法を組み込んだ,「非線形離散材料力学」の確立を目指して研究を進めています。
非線形格子/局在構造/非線形モデリング/マルチスケールモデリング
自然界にさまざまなスケールの周期構造物が存在します。宇宙ステーションや海上のメガフロートのような巨大周期構造物や、原子・分子が構成する結晶格子構造など種々の周期構造のダイナミクスを記述するモデルとして格子モデルが用いられてきています。特にこの格子モデルにおいて格子間の相互作用が非線形であるような非線形格子モデルのダイナミクスに注目しています。
非線形格子モデルには非線形局在モード(Intrinsic localized mode, ILM),離散ブリーザー(Discrete breather, DB)と呼ばれる特異なエネルギー局在構造が出現することが知られており、種々の興味深い性質を示すことが知られています。この非線形局在モードについて、数理的な観点からの基本的性質の解明及び、その工学的応用を目指した様々な解析を行います。具体的には以下のような解析を数値シミュレーションで行っています。
(a)1次元格子系における非線形局在モードの衝突シミュレーション(左), 多数の非線形局在モードの相互作用(右)
(b)2次元格子系における準1次元非線形局在モード(左), 2次元局在モード(右)
固体はミクロスケールでは原子・分子が周期配列した格子構造をとっています。これらの原子間の相互作用は通常の場合,線形結合であるとしてフォノンモードなどの解析が行われますが,高温や高ひずみの環境下においては線形近似が成り立たない大振幅の変位が発生すると考えられます。このような場合,原子間の相互作用は非線形のポテンシャルで記述されることから,非線形格子と同様に非線形局在モードが存在しうることが期待されます。このような観点から,分子動力学シミュレーションを用いて原子の大振幅振動の解析を行い,非線形性によるエネルギー局在を解析しています。
グラフェンにおけるILMの励起の分子動力学シミュレーション:モデル(左),振動の様子(右)
分子動力学シミュレーションは原子のダイナミクスを直接追跡する極めて強力な手法ですが,多数の自由度を持つダイナミクスから注目したいダイナミクスを抽出するにはもう一段階何らかの工夫が必要となります。この工夫として非線形動力学の解析手法を用いて自由度の抽出や,粗視化を行うことが出来ないかという観点からデータの分析やモデル化の検討を行なっています。
所属するマイクロダイナミクス研究室の目的であるマイクロダイナミクスの階層モデリングに向けて,中谷彰宏教授と首をひねりながら考えたり,研究室の学生にツッコミを入れたりして研究を進めています。扱う対象は固体を中心とした変形のダイナミクスです。解析手法は分子動力学法,有限要素法,方程式フリー法,格子ボルツマン法など様々です。研究室のページにちょっとだけ紹介しています。