はじめに
なぜこの記事を書くのか?
修士1年から今年度になるまで,日本機械学会,日本物理学会,日本応用数理学会,電子情報通信学会など,色々な学会に参加してきました. その過程で色々と学会準備(資料作り)をしてきて,自分なりのノウハウが培われてきたと感じています. また研究室の後輩の卒論発表や修論発表を公聴して,自分が培ってきたものを共有することが必要だと感じています. この記事では,発表中に気を付けることやスライドの作り方のみならず,それより手前の所から書いていこうと思います.資料作りに神経を集中させるのは,資料作りが研究活動よりも重要だからというわけではないです. その逆で,一番重要な研究活動を阻害しないように,つまり,自身の研究成果とその魅力を十二分に伝えることが出来るようにするためです.
なぜ学会発表をするのか?
スライドを作成する前に,もっというと発表原稿を書く前にやることを書いていきます.研究成果がある程度まとまったので発表したい,指導教員に出ろと言われた,研究室では毎年参加することになっている,なんとなく,など色々な理由はあると思います. しかしここでは,そういったことも含めて学会発表に臨む第一歩として考えておくべきことをまとめようと思います. それは,いつ,どこで,だれに,なにを,なぜ,どのように,を決めることです.
まず参加する学会が決まった時点で,いつ,どこで,なにを,の部分は半自動的に決まると思います. その他が重要だと考えていて,だれに(発表を聞く人たちはどのような知識や興味があるのか?),なぜ(あなたには発表に対して,どのような能動的モチベーションがあるのか?),どのように(あなたは学会発表でのやり取りを通じて,どうなりたいのか?)の部分です.
もう少し詳しく書きます.
まず,"だれに"です.話を聞く人は,自分の発表内容を詳しく知っている・そこそこ知っている・あまり知らない・全く知らない,とても興味を持っている・そこそこ興味をもっている・あまり興味がない・全く興味がない,学部生・院生・研究者・会社の人・一般の人,基礎的な研究が好き・社会実装が好き・その中間,など,ざっと思いつくだけでも色々な属性があります.ここを明確にしておくことで,具体的な話の流れなどが明確になると思います.
次に"なぜ"です.この発表の意味は何だろうか?ということです.とりあえず研究内容を広く知ってほしいのか,ある程度専門知識がある人とディスカッションをして考察などを深めたいのか,他の人はどうでもいいので特定の人ただ一人に届いてほしいのか,といった具合です.
最後に"どのように"です.自分の研究内容を知ってもらい同時に興味を持ってくれる,ディスカッションを行うことが出来て,次の方向性を定めることが出来る,○○さんとディープな議論を行い新しい視点を得ることが出来る,といった具合です.
オーラル発表の特徴
オーラルの特徴について書いていきます.ポスター発表とは異なり,オーラル発表では基本的にこちらが書いたストーリーに従って話が進んでいきます. そういった意味では一方向的なやり取りを行うことになります. 一方で聴衆の反応に対応することは必要だと思います. 聴衆の方を見ずにひたすら原稿を読み上げたり,こちらが用意したストーリーをなぞることだけに意識が集中するのは良くないと考えています. 聴衆が分かっていなさそうなら,かみ砕く・トーンを落とす・スローペースで話す,興味がなさそうなら少し巻く,大事なところは身振り手振りを添えるなど,私たちが前に立っていることで,可能になることはたくさんあると思います.
なぜスライドを使うのか?
オーラル発表だから,と言われればそれまでなのですが,なぜスライドを使う必要があるのか,ということを考えます.少し言い換えると,どのようなスライドを作るべきかということです. 私は,発表の主体はどのような資料を使うかではなく,しゃべりとボディランゲージであると考えています. 加えて,資料を説明するのではなく,資料で説明するべきだと考えています. したがって,スライドには喋りやボディランゲージでは表現できないような内容をメインに盛り込むべきです. それは研究結果を表す図表や,背景をうまくまとめたグラフィカルアブストラクトのようなもの,あるいは研究方法の骨子を説明するための画像などになるのだと考えています. スライドを準備しなくとも意思疎通が図れるような内容であれば,口頭で伝えればいいだけということになります.
スライド作成のフローチャート
ストーリーをまず作る
PowerPointやBeamerでスライドを作り始める前にやることがあります.スライドを作る前にストーリーをしっかりと作っておくべきです.目を閉じて一度聞いただけで,理解できるような論理構成にしておくことが重要です.例えば研究室の事務連絡で,"〇〇棟が来週から工事なので封鎖されます","TA・TFの必要書類の提出期限は今週末です"みたいな連絡があるかと思いますが,こういった情報は基本的に口頭で伝えられたり,あるいはSlackなどに文章ベースで共有されるだけだと思います.それは内容が簡易であり,視覚的な補助がなくても理解できるからです.研究発表はそういうわけにはいきません.
もちろん全体を通した構成(背景→研究目的→方法... みたいな感じ)は,ある程度共通認識として分かっています. しかし論理展開(どのような背景から問題設定を見出したとか,なぜその手法を使ったかとか,結果の見方など)は,千差万別で,オリジナリティが出る部分です.そして,聴く人は自分と同じペースで理解できるとは限らないので気を付けましょう.
原稿を書く
通常学会発表がある場合は,1~4ページ程度の発表原稿を書く必要があると思います. 一旦これを書きましょう. 普通は本番当日の1か月前とかに締め切りが来るはずなので,よほどのことがない限り原稿の方が先に完成していると思います. これをちゃんと作っておくと,発表の骨子ができます. 最近は原稿の提出がない場合でもいったん書くようにしています. 原稿の提出がある場合は,原稿とスライドで図表のデザイン・数式表現などを激しく変えないようにしましょう.台本を作る
ここでいう台本とは,しゃべる内容を一言一句厳密に書き記したものとは少し異なります. どういった順番で何を話していくか,ということや,気を付けることなどをある程度ラフにまとめたものだと思ってください. 後で10枚なり15枚なりスライドを作りますが,そのタイトルといいたいことを簡潔にまとめたようなもので大丈夫です. 実際に自分がしゃべるときも,原稿を一言一句読むことに集中してしまうと,読むことが目的となってしまい,聴衆がどんな反応をしているか,ということが分かりづらくなってしまいます. 少し自分で言葉を考えながらしゃべる,くらいでちょうどいいと思っています. また綿密に台本を考えてしまうと,少しミスをしただけで瓦解する恐れがあります. さらに,台本が飛んでしまうと,それだけで論理構成が破綻する恐れもあります. 自分で自分が今しゃべっていることが筋道通っているかわかる!くらいの余裕は持っておきたいです.ここまで一切スライドを作成し始める必要はありません. あくまで言葉として論理構成が整っているか(全体を通して支離滅裂なことになっていないか)確認してください.
スライドを作り始める
長かったですが,ここまで来てやっとスライド作成です. スライド作成の詳細は後述しますが,ここまででしゃべる内容は固まっていると思います. 自分のしゃべりを補完するために必要十分な図表などを中心にコンテンツを用意していけばいいと思います.スライド作成の細部について
ここからは実際にスライドを作るうえで気を付けることを書いていこうと思います. 私がいつも気を付けている事,研究室の発表練習などでたびたび指摘されていることなどをオムニバスにまとめていきます.フォントサイズに気を付ける
基本的にスライドに記述するフォントは大きくしましょう.参考として,私はスライドサイズ(50.8cm × 28.571cm)に対して,本文文字のサイズが36pt,見出しのサイズが48pt,タイトルのサイズが66ptptとなっています.
ジャンプ率に気を付ける
スライド内では何段階かに分かれたサイズのフォントを使うことになるかと思いますが,ジャンプ率(フォントサイズの比)に気を付けましょう(より広義には,配色や装飾なども含めたデザインとしての階層構造に気を付けましょう).大体1.3~1.5倍くらいで大きくすると,違う情報量を持ったフォントだと認識してくれると思います.私の例では本文の1.33倍が見出し,見出しの1.375倍がタイトルになっています.ここが中途半端だと,情報量の違いが認識しづらいです.フォントの階層構造に気を付ける
フォントの持つ情報量を変えるには,サイズだけでなく,Bold体を使う,影や下線などのあしらいをつける,配色を変える,などのように様々な方法があります.しかし多用は厳禁で,3~4レベルになる程度にとどめておいた方がいいです.具体的にはスライドタイトル,見出し,本文+強調用くらいにとどめておいた方がいいと思います.どういったポリシーの元フォントや色の使い分けをするのかはっきりしておきましょう.戻る