研究紹介など

研究紹介

フォノン熱伝導で生じる特異な熱輸送解析のためのモデル構築

Jpseph Fourierが提唱したFourierの法則は,熱伝導が生じる際の熱流束は温度勾配に比例する,といったことを現象論的に記述する方程式です.提唱から200年以上の時間が過ぎましたが,今日では定常状態にあるような様々な物体中の熱伝導を記述するものとして広く受け入れられています.このとき熱流束と温度勾配を紐づける熱伝導率は,物質定数として扱われます.
一方で,microscopicな描像で低次元材料の熱伝導を考えると,熱伝導率が系のシステムサイズに対する依存性を有するようになります.この現象は1900年代末期から2000年代初頭において,数値計算・実験を通じてフォノン(固体中の原子の,平衡点付近で生じる微小な振動)熱伝導等で報告されるようになりました.特に熱伝導率がシステムサイズに完全に比例して変化するような熱輸送形態のことを弾道的熱輸送,Ballistic transportと呼びます.この輸送形態は,熱の超伝導のような現象(熱流束の緩和が起こらない)を引き起こします.
これまで,非線形性を含まない線形格子や,戸田格子に代表される可積分系では弾道的熱輸送が再現可能でしたが,一般の非線形格子では弾道的熱輸送ではなく準弾道的な熱輸送(Anomalous transport)が報告されてきました.本研究では,この弾道的熱輸送を実現可能な1次元非線形格子を構築しました.Noetherの定理に基づいて並進対称性に着目し,並進対称性を満たすような格子力場の非線形ポテンシャルを設計しました.非線形ポテンシャルには,長距離非線形相互作用を採用しています.
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非線形格子における定在波解・進行波解の存在証明と安定性解析

ナノスケールの熱輸送を表現するための簡易モデルとして1次元非線形格子は用いられてきました.その一方で,1次元非線形格子は決定論的な運動を追いかけやすく(解析学的なアプローチがしやすい),その波動伝ぱ特性についても広く研究されています.伝熱キャリアとなるフォノンも非線形波動の一種ですので,進行波や定在波が壊れずに非線形格子中に存在するか,という議論は重要です.
上記の問いかけは,1次元非線形格子のダイナミクスを記述する微分方程式に,特定の形状の周期解が存在するか,という問題へと帰着されます.周期解の存在証明には陰関数定理など様々なアプローチが提案されてきましたが,本研究では(Brouwerの)不動点定理を用いたアプローチを採用しています.厳密に周期解を求めることが出来ればいいのですが,非線形微分方程式を考えている都合上,中々そううまくはいかないので,存在の証明となっています.
不動点定理を用いたアプローチでは,まず周期解として時間と空間に対する変数分離形を期待して,時間方向・空間方向に微分方程式を分離します.そして空間方向の方程式を,1周期経過した後の空間的な位置を返す写像(不動点方程式)として見なします.このとき,空間的な位置の変位は有界な領域内に収まる,ということを示します.これにより周期解中の空間方向のパラメータを用いて,「少なくともこの範囲内に周期解が存在する」ということを主張することが出来るようになります.JacobianのNorm評価を追加で行うことで,Banachの不動点定理(縮小写像の原理)なども適用することが出来ます.
得られた(近似的な)周期解の周りに微分方程式を線形化して固有値の評価を行うことで,周期解の安定性も議論できるようになります.こちらはまだ勉強中です.上記の議論は,Solitonや離散ブリーザーといった他の非線形波動に対しても適用可能です.